原支配人による公演レビュー

2021年12月29日 (水)
【原支配人による公演レビュー】
2021年12月10日(金) TRAGIC TRILOGY Ⅰ「椿姫」

2年前に好評の中終了した「音楽劇紀行」の演出・脚本を3年に渡り行って下さった田尾下哲さんの天才的アイディアとホールの制作で練り上げた、年に1回3年連続、同じメンバーでオペラ悲劇三部作を行うシリーズです。田尾下さんの解釈表現で、ハクジュホールという小さなホールでピアノがオーケストラ代わり、セットや小道具も最小限に留めて歌、物語をクローズアップさせます。オペラは原作の物語があり、オーケストラ、演出、舞台装置、歌の総合芸術。そこからオーケストラと舞台芸術を外せばハクジュホールという小ホールでもオペラは出来るとかねてより考えていた内容をあり得ない程にグレードアップした舞台になりました。
出演者はヴィオレッタ役のソプラノ青木エマさん、アルフレード役のテノール城宏憲さん、ジェルモン役のバリトン大西宇宙さん、音楽監督・ピアノの園田隆一郎さん、そして演出・脚本は田尾下哲さんです。
1幕の後に休憩、2幕1場で休憩、2幕2場と3幕は続けて上演、18時半スタートで約2時間半という結構フルスペックなボリュームでした。
「椿姫」は悲劇と言われておりますが、アレクサンドル・デュマ・フィスの原作では最後病気で死んでしまうヴィオレッタとアルフレードは会えていません。アルフレードがヴィオレッタのところに着いた際には埋葬も終わっていて、友人に託された手記でアルフレードへの一途な愛を知るのです。一方オペラでは、アルフレードが戻って来た時はヴィオレッタは結核で病の床にあり、最後別れの時にヴィオレッタはアルフレードに自分の肖像を託し、いつか良い女性が現れてあなたに恋をしたらその方に渡して欲しいと言い、皆泣きながら終わります。原作の悲劇とオペラの悲劇の内容が書き換えられていて悲劇の定義が違うというところに問題点を置く演出になったのだと、室内楽ホールなのでオペラが苦手な私は思いました。間違っていたらごめんなさい。皆さんよくご存じの「リトル・マーメイド」は原作ではアリエルが水に溶けて泡になってしまうけれど、ディズニーでは王子様と結婚できるという、ハッピーエンドになってしまうこともあるなぁ…と思い出してしまいました。
話を戻すと、1幕に入る前に日本語で、最後のシーンを台詞で解説、ヴィオレッタの死後に残っていた手記を読み、どれほど一途に想われていたかを知り、アルフレードが後悔して苦悩するシーンがあり、そこからいきなりオペラがスタート。1幕「乾杯の歌」が始まりました。字幕を出すと文章を追うことに頭が回り、音楽に気がいかなくなる、という方針のもと、字幕なし、ほぼカットなく進んで行きました。
違うのは3幕、オペラでは再会してお別れするシーンですが、そこが妄想のシーンとして描かれており、主人公2人は抱き合おうとしているのに抱き合えない、すれ違うというシーンでした。
この1日のために出演者はどこまで稽古したんだろう、ホールだけでなく白寿本社ビルの会議室を使っても稽古をしていました。舞台道具は実は白寿の会社の備品やホール社員の家にあったものを持ってきてという感じで、かなりシンプル。そこにハクジュホールのシンプルな照明に色や角度をつけて最大限に表現したり、歌手が客席に降りたり通路を使って登場する演出もありました。
私はオペラは素人ですが、伸びやかな声や演技に関しては本当に素晴らしかったと思います。最大限でかつ綿密な準備をされた皆様に感謝です。この話の問題提起も演出も面白く、どこか地方のホールで再演されないかと本当に思います。1回では勿体ないです。
次回第2回は来年12月9日に「トスカ」を上演いたします。オペラという前例が少ないパターンなので広報的に苦労がありましたが、内容に関しては必ずご満足頂けるものなので、次回もどうぞご期待ください。

2021年12月10日(金) TRAGIC TRILOGY(トラジック・トリロジー) Ⅰ「椿姫」18時30分開演

ヴェルディ:歌劇「椿姫」全3幕

[出演]
ヴィオレッタ・ヴァレリー 青木エマ
アルフレード・ジェルモン 城宏憲
ジョルジュ・ジェルモン  大西宇宙

音楽監督/ピアノ     園田隆一郎
演出/脚本        田尾下哲
練習ピアニスト      松本康子、松浦朋子
ヘアメイク        氏家恵子