原支配人による公演レビュー

2022年10月16日 (日)
【原支配人による公演レビュー】
2022年9月30日(金) 笹沼樹&上田晴子 DUO リサイタル

数年前にヴィオラレジェンド大山平一郎先生から「室内楽の最小単位はトリオでなくデュオである」「ブラームスのヴァイオリン・ソナタのピアノは伴奏ではなく、ピアノとヴァイオリンのためのソナタである」というお話を伺い、これまで何十年も聴いてきたヴァイオリン・ソナタやチェロ・ソナタ等、単旋律のメロディーラインしか意識していなかった事に気付かされました。例えばブラームスの「チェロ・ソナタ 第1番」は、出だしのチェロの素晴らしいメロディーに対しピアノの低音が後拍で入っていて、ブラームスやフランクのヴァイオリン・ソナタは、ヴァイオリンの裏でピアノが演奏しているというより、デュオで素晴らしい旋律や低音が奏でられています。最近気づいたことで本当にお恥ずかしい限りですが……。
そういう見方を始めてからハクジュホール発信のデュオ・リサイタルができないかと考えていたところ、パリ国立高等音楽院ピアノ科・室内楽科助教授で、コロナ禍になり日本帰国が増えたお陰でハクジュホールでの演奏機会が激増のピアニスト上田晴子さんと、オーケストラ、室内楽、ソロ全てに全力投球で生き急いでいる感たっぷりのチェリスト笹沼樹さんのデュオをお願いすることとなりました。上田さんが以前ピアノ四重奏か何かの公開指導をなさっていた時に、本当に室内楽にお詳しい方だと感銘を受けましたが、その解釈をダイナミックに受ける笹沼さんとの本番は凄まじい演奏になりました。
プロコフィエフとR.シュトラウスのチェロ・ソナタをメインにしようと考えられ、本番もいくつか積み上げてからハクジュでの公演を迎えられました。メインのプログラムを盛り上げるための仕掛けとも言える小曲の選び方やセンスは、これまでのデュオで培われたものであると感じました。
グラズノフの「吟遊詩人の歌」、ラフマニノフの「2つの小品」、プロコフィエフのバレエ組曲「シンデレラ」より“アダージョ”は、比較的ゆったりとした素晴らしいメロディーをチェロとピアノが歌い、初めて聴いた方でも惹き込まれるような旋律の連続でした。グラズノフ、ラフマニノフの後には拍手が入りましたが、プロコフィエフの“シンデレラ”は、甘美なメロディーに惹き込まれているうちに拍手をする隙を与えず、アタッカでチェロとピアノのためのソナタに続きました。ハクジュホールはピッツィカートの音も響きやすいのが特徴ですが、第2楽章、笹沼さんの全身を使ったピッツィカートの音と動きは、ホール全体を渦に巻き込むような印象を受けました。
後半のR.シュトラウスの前に、ブラームスの「5つのリート」より2曲。こちらも、前半のロシア音楽からドイツ音楽に切り替えるための仕掛けです。お二人でドイツ歌曲の言葉の流れ、音楽の流れを確認しながらリハーサルを行ったそうです。R.シュトラウスの若い頃の朗々としたソナタを歌い上げ、お客様の満足度が最高潮に達した感じでした。
アンコールは3曲。R.シュトラウスの「モルゲン」のピアニッシモは、ハクジュホールで演奏すると特に痺れる!のです。そして他2曲は、色々な聴き方の提案であるようにも感じました。
終演後に、お二人の考える「極上のデュオ」とは何かを伺い、今後ホールとして意識すべき1つの方向性を提示することができたコンサートとなりました。まあ、凄かったです。

2022年9月30日(金) 笹沼樹&上田晴子 DUO リサイタル 19:00開演
[出演]
笹沼樹(チェロ)
上田晴子(ピアノ)

[プログラム]
A.グラズノフ:吟遊詩人の歌 op.71
S.ラフマニノフ:2つの小品 op.2
S.プロコフィエフ:バレエ組曲「シンデレラ」 op.87 より “アダージョ” op.97bis
S.プロコフィエフ:チェロとピアノのためのソナタ ハ長調 op.119
J.ブラームス:「5つのリート」より
“歌の調べのように” op.105-1
“まどろみはますます浅く” op.105-2
R.シュトラウス:チェロとピアノのためのソナタ ヘ長調 op.6

[アンコール]
R.シュトラウス:モルゲン
フランセ:無窮動
カサド:グラーベ

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